Symphony V
「落ち着いたか?」

村儀が唯達に声をかけてきた。唯はレオンから離れた。

「すいません」

なぜか口からついてでた。レオンは唯の頭を自分の方に抱き寄せ、優しく撫でた。

「辛いと思うけど…聞かせてもらえるかしら」

佐藤が辛そうな顔で聞いてくる。

「はい…高遠稜夜。高校3年。私の学校の、先輩で…」

そこまで言って、口をまた閉ざした。


憧れの存在。

いつも遠くから見てた。
学校に行く楽しみの一つで、見かけることができただけで、その日一日ずっとハッピーだった。

先生に怒られたって、友達と喧嘩したって。

テストで悪い点をとったって、体育がマラソンだったって。


稜夜の姿を見ることができただけで、一気にそんなこと忘れられた。



見ているだけでよかった。ただそれだけで。

だけど、目が合い、話をすることができ、手をつなぎ。


「…先輩は、生きてたんです」


ぎゅっと唇をかむ。涙がこぼれないよう、ぐっとこらえながら、目を閉じた。



涙が止められない。




「昨日確かに、一緒に」


まぶたの裏に浮かぶのは、先輩の優しい笑顔。


「ライブで出会えたのは偶然。それまで遠くから、先輩を見られるだけで幸せだった。初めてあの日、話をしたの」

先輩の声が、今も側で聞こえてくる気がした。


「手をつないだ。嬉しくて恥ずかしくて。今までの中で一番、幸せな気分だった」


頭をふるふるとふる。



「先輩は、生きてる、生きてるの!」




レオンがぎゅっと唯を抱きしめる。唯は両手で顔を覆うと、声を殺して泣いた。
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