Symphony V
しばらくすると、少し落ち着いた雰囲気の男の人が、入り口から入ってくるのが見えた。佐藤が相手をしていたが、しばらくして、佐藤の怒鳴り声が聞こえてきて、唯はびっくりしてびくっと体を振るわせた。

「ふざけないでください!自分の息子のことなんですよ!?」

驚いた顔をしていると、レオンが唯の肩を少しぽんぽんっと叩いて、男のほうへと歩いていった。

仲裁に入るレオン。相手の男はこともなげな表情で、レオンと何かを話していた。


稜夜先輩の…お父さんって感じじゃなさそうだけど。


3人のやり取りが少し気にかかり、レオンのもとへ行こうと立ち上がった。

「おい」

そのとき、後ろから声をかけられ、唯はえ?と振り返った。

「少し、話を聞かせてもらえるか」

村儀はそう言って、こっちだ、と唯を呼んだ。唯は少し3人のやり取りが気になりつつも、村儀のあとについていった。

「…悪いが、吸わせてもらうぞ」

村儀はそう言うと、シャツの胸ポケットからタバコと100円ライターを取り出して火をつけた。

「話って…何を聞きたいんですか?」

唯が少し緊張した面持ちで村儀に聞くと、ふぅっと白い煙を口から吐き出しながら答えた。

「紅い蜘蛛っての、聞いたことあるか?」

「あかいくも…ですか?」

唯が聞くと、村儀はこくりと頷いた。自分の頭の中の記憶の引き出しを一生懸命開いて言ってみるが、聞いた覚えがなく、記憶には何も残っていなかった。

申し訳なさそうに首を横に振ると、そうか、といって、村儀は灰をトントンっと灰皿に落とした。

「それじゃ、あの男について、何を知ってる?」

聞かれて眉を顰めた。

「あの男って…稜夜先輩のことですか?」

聞くと、村儀は首を横にふった。

「違う。お前さんと一緒にいた、金髪の兄ちゃんのほうだ」

「レオン?」

村儀はこくりと頷いた。
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