Symphony V
「何を知ってるって…レオンは稜夜先輩の留学時代の親友だってことくらいしか」

少し困ったように言うと、村儀はぴくりと眉を動かした。

「仏さんは、昔留学してたことがあったのか?」

聞かれて唯は頷いた。

「そう、聞きましたけど。何年か前に、アメリカに留学してたって。そのときに、レオンの家にホームステイでお世話になって、そのときからすごく仲良くなって、今でも親友だって」

稜夜の笑顔がまた、脳裏に浮かぶ。目を閉じて、必死で涙をこらえた。

「お前さんは、一体、2人とはどういう関係なんだ?」

聞かれて少し困惑する。

「どういうって…稜夜先輩とは同じ学校の先輩後輩で、レオンはその先輩の友人で…」

「いつ、知り合ったんだ?」

「いつ…さっきも言いましたけど、稜夜先輩とは昨日のライブで、たまたま一緒になって、まともに話したのはそのときが初めてです。レオンだって、稜夜先輩にライブのあと、ご飯にいこうって誘われて、そのときに初めて会ったし」

唯の言葉に、村儀はふんっと呟くと、短くなったタバコを、灰皿に押し付けて火を消した。

「昨日、仏さんを最後に見たのはいつだ?」

「…その仏さんって言い方、やめてくれませんか?」

唯がしかめっ面で村儀に言うと、村儀は不思議そうに聞き返してきた。

「なぜだ?もう死んでいない人間だ。仏さんになったんだ。そう言って何が悪い」

「…っ、先輩を最後に見た記憶があるのはカラオケボックスに一緒に行ったところまでです。これで満足ですか!?」

村儀の無神経さに腹が立つ。
が、村儀の言うことは正しくて、ただ、唯は、稜夜が死んだという事実を受け入れたくなくて、村儀の呼び方が気に食わなかっただけだった。

村儀があの遺体のことを、仏さんと呼ぶたびに、稜夜が死んだという事実を突きつけられているようで、唯は胸の奥がずきずきと痛んだ。
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