Symphony V
まさか。

と思ったものの。


唯はふと、先月行われた、キアリーのヨーロッパ公演を思い出した。

「あ!」

何かを思い出したような顔をして声を出す唯。その唯を見て、レオンはぱちんと指を鳴らすと、唯の方を指差してきた。

「そうだよ。先月のヨーロッパ公演。あの時は、最後の公演地、オランダのハーグで、有名な真珠の耳飾の少女が盗まれた」

そう。
かなり有名な絵画が盗まれたということで、日本でも結構大々的に取り上げられていた。

盗まれた翌々日に、絵画は配達されて戻ってきて、たっぷりと堪能させていただきましたというお礼状が付いてかえってきたとかいう話だったはず。

「犯人は何がしたかったんだろうね」

首を傾げる唯に、レオンは笑って答えた。

「さぁね。たんに楽しんでるだけじゃねーのかな」

その言葉に、キアリーが笑いながら答える。

「そうだな。きっとそうなんだろう。おかげで、僕の公演の時には、いつも警察が周りを張り込んでるんだ。変な動きはないかどうかってね」

ため息を吐くキアリーに、少しばかり同情しつつも、唯はははっと笑った。

「じゃ、もしかしたら、ここにも盗賊が現れるかも!?」


ありえねー。



自分で言って、自分の心の中で一人突っ込みを入れた。

そんな私とは裏腹に、真剣な表情でレオンが口を開いた。

「多分、な」

レオンのその表情に少しドキッとする。


な、何、その表情は一体。

必死で声が上ずりそうになるのをこらえて、唯はそっか、と呟いた。
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