Symphony V
目が覚めると、見覚えのある天井が見えた。


…あぁ、なんだ…夢か……



額に手を当てて、目をそっと閉じる。


嫌な夢だったな。


深く、重いため息をひとつつく。何度か寝たことのある、居間の少し固いソファーの感覚が、ひどく懐かしく思えた。


そういえば、ここでうっかり寝ちゃって、お母さんに怒られたりしたっけ。


『こら、唯!もーまたこんなとこで寝て』

怒る母。隣には小さく笑う父がいる。

『まぁまぁ、母さん。唯、そんなとこで寝とったら風邪ひくぞ?』

優しい父の声。


それと同時に、両親の寝室で見た映像がフラッシュバックする。

「っつ…!」

ぎゅっと目をつむる唯。

赤黒い血が床一面に広がり、2人は重なりあうようにして倒れていた。着ていた洋服も、血で汚れていて、元の色がわからないくらいだった。


きっと、あれも、夢。
変で…嫌な夢だった。


でも。


どこからどこまでが夢だったんだろうか。


…ううん。
いっそ、全てが夢だったらいいんだ。

両親が死んでいたことも、稜夜先輩が死んだことも。

何もかも。


…全て夢。



お願い神様。

もう我儘言わないから。
ちゃんと宿題もするから。
お父さんとお母さんを困らせたりしないから。


お願い神様。



全て夢だったのだと。

そう、言って。



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