Symphony V
心のどこかで、まだ夢だと思いたい自分がいた。

だけど。


「レオン、お父さんとお母さんに会わせて」

唯の言葉に、レオンは少し困ったような表情を浮かべる。

「唯、今は…」

唯の言っている意味を掴みきれず、レオンは歯切れが悪かった。


「大丈夫」


しっかりとレオンを見据える。その目に、レオンは何かを感じ取ったようで、こくんと頷いた。

「覚悟。できてるんだな」

色んな意味の込められたその言葉に、唯は黙って頷いた。

「…わかった。待ってろ」

そう言うと、レオンは居間を出ていった。



思い出した記憶の中で。

1つ。

どうしても引っ掛かるものがあった。


「唯」

レオンが呼ぶ。唯は頷いて、レオンの方へとゆっくり足を進めた。

「ご両親はまだ、部屋で発見されたときの状態のままだ」

レオンの言葉に頷きながら、階段をあがる。


近くにいる警官達の、同情に満ちた視線が辛い。


部屋の前に着くと、警官の1人がスリッパのようなものを渡してきた。

「…現場はまだ、鑑識が調査してますので」

「はい」

言われて唯は、短く返事をした。
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