Symphony V
首にあるものを警官に見せると、唯はポケットに入れていた携帯を取り出し、ぽちぽちっと電話をかけ始めた。

『はい、村儀です』

数回のコール音の後、電話越しに機械的な声が聞こえてきた。

「もしもし、今日、そちらで高遠稜夜先輩のことで伺っていた、東峰ですが」

『はい』

機械的な返事のまま、村儀が言葉を返してくる。

「…紅い蜘蛛について教えていただけませんか」

唯の言葉に、返事はない。

『なぜです』

何かを探るように聞いてくる村儀に、唯は父の首の赤いマークを見ながら答えた。


「両親が殺されました」


『…………』

電話からは何も言葉は聞こえない。

「父の首の部分に、赤い色をした、蜘蛛のマークがありました」


『……足は』

「え?」

村儀の言葉の意味がわからず、聞き返す。

『蜘蛛の足の数は?』

聞かれて唯は刻まれたマークの、足の数を数えた。

「…あれ、6本?」
蜘蛛の足は通常8本。でも、何度数えてみても、6本しかない。

『すぐに行く。場所は』

「え?あっ…」

村儀の反応が唯の中で確証となった。家の住所を伝えると、村儀は短く、わかった、と言って電話を切った。


やり取りを見ていた警官と鑑識は、ぽかんとした顔をしていた。

「すいません、捜査の邪魔をして。出ますね」

唯はパクンと携帯を閉じると、部屋を後にする。

「唯、もういいのか?」

唯の淡白な反応に、レオンは少し驚いた様子だった。唯は何も言わず、ただ、少しだけ微笑んだ。
< 86 / 247 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop