Symphony V
「だって。これは夢だもん。みんなみんな、夢なんだもん」

笑っているように見えた顔も、気づけばひきつった笑顔になっていた。

「だって!お父さんとお母さんが、何で?何で殺されてるの?」

口に出すほど、言葉にするほど、唯の顔はみるみる苦痛に歪んだ。


一度あふれ出すと、止まらなくなった言葉と涙。唯はばたばたと居間の隣にある小さな部屋へと駆け込んだ。

沢山のぬいぐるみが置かれてある部屋。その中にある、大きなかっぱのぬいぐるみに抱きついた。


唯が小学生の頃、誕生日にと父親がUFOキャッチャーで取ってくれた代物だ。



『唯は大きくなったら、何になりたい?』

『お父さんのお嫁さん!』

『お?それは嬉しいなぁ』

急に蘇ってくる記憶。

楽しかった記憶。

別に他の家庭と特別何かが違うわけじゃないけど。それでも。優しく、時には厳しく怒ってくれる父。

『よかったね、唯。大きなぬいぐるみじゃない』

『うん!』

『大事にしなさいね?』

いつも口うるさかったけど、でも、大好きだった母。
その2人が、自分を置いていなくなるなんて、そんなはず、絶対にない。
声を殺してなく唯に、レオンは声をかけることが出来ず、ただじっと、悔しそうな表情で、そばで静かに見守っていた。


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