キ ミ イ ロ













櫂兄に連れられて、とある河原に来ていた。




「ここがよく見えるとこっ」



まだ少し明るい空を見てそう言った。

「……涙、花火観たことあるでしょ?」


「…一回しかない、四年くらい前に」




そう答えた自分に、櫂兄は驚きの顔を向けた。


「一回?!四年前?!」


「……うん」



──・・・驚きすぎだろ。
だって、花火を見ると思い出すんだ。



お父さんを。

だからずっと、花火に背を向けてきた。
泣くことにも、愛にも、





家族にも。


「なんかイヤな思い出があるとか…?」


「…まあね」



『また観に来ようね』


約束、したのに。





「…じゃあさっ」


櫂兄はいきなりかしこまった声で言う。




「今年の…、今日の花火は、一番いい思い出にしよっ!!」


そう言って笑って、あの笑顔で。





「………うん」


いつの間にか櫂兄の笑顔が、
櫂兄の隣が、
心地いいと感じていた自分がどこかにいた。




< 108 / 327 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop