キ ミ イ ロ
「お母さんの旧姓は…、井沢さん、だよね?」
「……はい」
──・・・なに、クソ親父。
お母さんと自分捨てて、
なに自分だけ死んでんだよ。
なに自分だけ…
逃げたのか?
「……連絡だけでもしようと思って、お父さんのケータイ見たら、涙ちゃんの番号あったから」
ケータイは小6から持ってた。
だからお父さんも番号は知ってる。
自分も以前は知ってたけど消した。
「今日、お通夜だから……、もし良かったら斎場に来てくれる?お父さんも、きっと喜ぶよ」
それから、その女の人の声は耳に入らなかった。
気がついたときには、耳に押し当てたケータイから、ツー、ツー、という音だけが聴こえた。