キ ミ イ ロ
家に帰ってすぐ、部屋に入った。
久し振りに勉強机に向かう。
特になにも考えずに、ボーッとしていた。
と、そのとき
「…涙」
もう聞き慣れた優しい声。
それはドアの向こう。
「……櫂兄?」
そう言って、ドアに向かえば
「あ、いいよ開けなくて」
そう言った。
ドアにもたれ掛かって櫂兄の言葉を待った。
「…大丈夫?」
──・・・?
なにを大丈夫?なの?
「……なにが?」
「大丈夫ならいいけど…、ちょっと心配した」
安心したようなため息がドアの向こうから聞こえる。
「……心配?」
心配するようなこと?
「うん、心配した、……じゃ涙、おやすみ」
櫂兄はそう言ってドアから離れた。
自分はずっと耳を澄ましていた。
でも反射的に、何故かドアを開けていた。