キ ミ イ ロ
ドアを開けたら、部屋に入って行く櫂兄の後ろ姿。
だけど櫂兄は止まって振り向く。
「……櫂兄っ」
櫂兄を見ずに、名前を呼ぶ。
「…涙?」
その優しい声に、肩が跳ねる。
「おっ、…やすみ」
何故か声が裏返る。
──・・・ハズっ…
と、そのとき、クスリと笑い声が耳に届く。
そして
「おやすみ、涙」
と言った。
「…………」
慌てて自分の部屋に入る。
何故かすごく焦って、すごく緊張感があって。
なんで、なんで
おやすみ如きの言葉をわざわざ言ったんだろう。
なんで、
櫂兄の声が聴きたいって思ったんだろう。