キ ミ イ ロ













愁が泣く必要なんかないのに。

本当は、
泣かなきゃいけないのは


自分、なのに。





すべて、自分なのに。








愁を見ていられなかった。

隠した腕がジンジンと脈打った。




「……愁は、泣かないでいい」


不意に出た言葉だった。
そのとき、ふと思い出したのは
櫂兄の笑顔だった。


「…愁、」



愁を見た。



頬を滑るように落ちる一滴の涙が、太陽の光で光った。

「……愁、泣くなよ」




愁は何を考えているんだろう。
泣いて思うのはなんだ?

憎しみか?怒り?悔やみ?悲しみ?




血が滲む腕をチラッと見て思う。


“どうやったら泣けるんだ?”
と。




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