“シ”は幸せの音♪
~俺様バイオリニストと凡人ピアニスト
俺様バイオリニストのドSな正体
「はああぁぁぁー……
嫌だなあ」
のろのろ階段を上る。
かばんが、足が、体が、いつも
より重たい。
それから気持ちも。
「仕方ないじゃない!
てか、むしろチャンスよ。
菊池先輩とペアなら、きっと
上手くなれるし」
朱子ちゃんが励ましてくれる。
「そんなこと言ったってぇ、
あたしはピアノ教室の先生
になりたいんだし」
「だったら尚更じゃん」
「何言ってんの!
菊池先輩は、コンクールとか
そういうタイプの人間だから、
あたしとは世界が違うの。
朱子ちゃんだってわかってる
でしょ」
あたしがこういうと、朱子
ちゃんはちょっと困ったような
表情をした。
そのとき
「確かに俺は“コンクール
タイプ”の人間だけど」
嫌な予感がして振り向く。
「悪いか。
実力のある人間が、より上の
レベルを目指すことが」
あたしに、鋭い視線を投げ
かける形のいい瞳。
「きッ、菊…」
「あ、菊池先輩
おはようございます」
頬を引きつらせるあたしと
さらりと微笑み、あいさつする
朱子ちゃん。
「2年の谷本か、おはよう。
悪いが…」
菊池先輩は、あたしのほうを
チラッと見て言った。
「お前の友達は借りて行く。
時間がないもので」
え…?
朱子ちゃんの友達って、
あたし?
なんて、思ってると
「ひゃあ?!」
襟元を突然掴まれ、あたしは
猫のように菊池先輩に連れ
去られた。
「ごきげんよう、谷本」