ただ、声をあげよう。
「変わらんなあ」

つい口に出していた。

このあぜ道に来たのなんて小学校以来。

あのときは父さんと母さんが買ったばかりの車に乗っけてくれて、家族3人で来たっけ。

お墓参りだっていってたけど、うちはじいちゃんもばあちゃんもまだ元気だ。


お墓参りを口実に家族サービスで旅行にでも連れてきたつもりだったんだろう。

じいちゃんちに向かうこの道の途中で、買ったばかりの新車のくせにエンストして対抗車が通りかかるまでずいぶん長い時間、田んぼの真ん中で立ち往生した。


暑い夏の日だった。

夏が私たちをあざ笑うかのように、太陽がかんかん照りだったのを覚えてる。

父さんがボンネットを開けて覗き込んだり、シャーシの下にもぐりこんだりしてちっともかまってくれなかったから、あたしはふてくされてバス停のベンチに座った。

足をぷらぷらさせてベンチにもたれて母さんと2人、父さんを眺めてた。


その背もたれに「ケロヨン」って書いてあった気がする。


バスが通り過ぎた方向を見た。


地平線の向こうまで田んぼが規則正しく並んで、間をまっすぐ一本、あぜ道が突っ切ってる。

頭をたれかけた稲穂が生あったかい風にざわりざわりと揺らされていた。


迷うほどもない。


この道をまっすぐ、ずっと、ずっと歩いていったら。


じいちゃんとばあちゃんの家がある。
< 2 / 44 >

この作品をシェア

pagetop