ただ、声をあげよう。
「桜の花って書いてな、おうかって」

「きれいな名前だが。それ何」

「きれいか、そげん思うか」


じいちゃんは言った。


「桜花はな、人間爆弾たい」


あたしは喉の渇きを覚えて、麦茶を出すため冷蔵庫に向かった。

冷えた麦茶をコップに入れて戻るとじいちゃんは仏壇の前で手を合わせ、りんを鳴らした。


「美幸、ここ開けてみぃ」


じいちゃんが指差したのは仏壇の下にある地袋だ。

小さいころから決して開けてはいけないと言われていた開かずのふすま。


あたしは焼けて茶色くなったふすまを開けた。


樟脳の香りとともに中の袋を引っ張り出す。



油紙に何重にも巻かれた紙包みがでてきた。


「わしらはな、特別攻撃隊じゃ、お前らは選ばれて国を守るといわれた。
一機をもって一艦を屠ると。
あのときはずっと信じとった。
だけどな、桜花を見たとき「ああ、これがわしの棺おけか」と思ったとよ。
桜花はな、自分ではとべん。
爆弾だけがどかんと機首に乗せられて人間一人それに乗ると。
一式陸攻ちゅう飛行機に積まれて、敵艦のそばで切り離される。
そげん飛行機なんぞ乗りたくなか」

「どうして、誰もイヤだって言わん。
死ぬの分かっとって何でみんなでイヤって言わんかった?」


「そげんことが言える時代じゃなかったと。
今だからわしも言えるがあんとき、兵隊に行くときは若かったばってん、
それに国中が死ぬために生きとったようなもんじゃけん」



じいちゃんは麦茶をぐいっと飲み干した。



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