ただ、声をあげよう。
「ばあちゃんと豊と美和の髪じゃろ。
持っていかんね、って聞いたらな。
死にに行くのに女房子どもは巻き込めん。
わしはこいつらを守るために行くって言うた」

吹いたら飛んでしまいそうな子どもの髪の毛が絹糸で縛ってくるんであった。

「そんなこともな、軍のお偉いさんに聞かれたらえらいことだから、小さい声でそう言ったあと、昭吾はことさらにおおきな声でわしに言った。
「靖国神社で会おう」って」


「じいちゃんは、あたしのほんとのじいちゃんは飛び込んだの?」


「飛び込んだ。
最後の無電、わしはきいとった。
わしらは突っ込む前には「我、突入す、天皇陛下ばんざい」って言えっていわれとった。
だけん、昭吾はよし子、美和、豊って言ったとよ」


日が傾いて松の木の影が長く伸び、セミがぽとりと影の中に落ちた。

 「そのあとですぐ爆音が聞こえて通信不能になった。
さすがにな、誰もなんもいわんかった。
昭吾の最期の抵抗たい。
わしは昭吾から預かった髪を懐にいれてな、抱きしめて泣いた。
わしもすぐ同じように突っ込むと思っとった。
だけど、なんでじゃろな。生き残ってしまったたい」




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