ただ、声をあげよう。
かばんの中に手を入れ、内ポケットから携帯を取り出した。

じいちゃんちの電話番号をプッシュする。

30コールを数えても誰も出ない。


―歩くしか、ないよねー


心配なことはたった一つ。

あたしのおなかには赤ちゃんがいる。

まだちっちゃい二つの命。

生まれてしまったらこんな遠くまではなかなか来られないから、今日はちょっと無理をしてやってきた。

ここから20分くらいかかるじいちゃんの家まで歩くのはしんどいかもしれない。


出かける前に電話もしなかったし、メールなんて文明の利器はじいちゃんとばあちゃんには使えない。

台風も接近しているらしく、どんよりとねずみ色した空は今にも泣き出しそうだった。

湿った風がさえぎるものも何もない田んぼのど真ん中に立ちすくむあたしに、容赦せず息を吹き付ける。


あたしは祈るような気持ちでじいちゃんちの電話を鳴らし続けた。


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