ただ、声をあげよう。
「こんにちはー」


明生の声が玄関から聞こえる。

はーい、と答えてちょっと立ち止まった。

閉まったまんまの仏壇の扉を静かに開ける。

この中にあたしのほんとのじいちゃんがいる。

この仏壇は昭吾のために、じいちゃんとばあちゃんがしつらえたんだ。

仏壇がここに置かれた小学生のときから、なんにも知らずに手を合わせていた。


りんを勢いよくならす。


響くような大きな音がして、その音に呼ばれたのか、ばあちゃんが仏間に顔を出した。

もうひとつりんを鳴らして床の間においてあったのバナナをひとつむしった。

下になってた部分は茶色く変色して、斑点になってる。

ばあちゃんがそれを見て、あたしに言った。


「バナナがはしかにかかっとうよ」

あたしもニヤリと笑った。

ばあちゃんの人生の中にあたしもちゃんといる。

りんの染み入るような澄んだ音があたりを満たして、あたしは仏壇に向かって手を合わせた。


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