ただ、声をあげよう。
田んぼのあぜ道を明生と2人、軽快に走っていく。

振り返るとじいちゃんとばあちゃんがいつまでもあたしたちの乗った車を見送っていた。


どんどん2人が小さくなる。


バス停のケロヨンのベンチのところで窓を開けた。


もう、2人の姿は見えない。
山並みが遠くなりどんどん離れていく。


「明生」


運転席の明生の手をそっと握った。


「美幸、ごめんな。妊娠中なんだからオレもお前のこともっと考えなきゃならないって反省した」


明生はハンドルを右手だけで持って左手をあたしの右手に重ねた。


「明生、もし、世の中がへんなふうに流れていったら」


あたしは限りなく続く田んぼを見据えて前を向いたまま、言った。


「この子たちのために声を上げようね」



台風はもう去っていったらしい。



夏の終わりのぬるい空気と秋の初めのひんやりした空気があぜ道を通り抜けていった。


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