ただ、声をあげよう。
床の間の横には紫檀の仏壇がしつらえてある。

小さい頃にはこのスペースはからっぽで何も置いてはいなかった。

地袋のふすまを開けようとしてじいちゃんに怒られたっけ。

あのときは地袋の上に仏壇なんて確かになかった。

じいちゃんもばあちゃんも元気なのに、何で急に仏壇なんて置いたんだろう?

不思議に思ったけどあたしはじいちゃんに言われたとおり、線香に火をつけ手扇で炎を消し香炉に差し込んだ。


手を合わせて、りんをひとつ鳴らす。


りーんと響くように音が漂い、線香の煙が細くたなびいて後に静寂がやってきた。


キキキキキキィー ケックケケケケ

日の入りにはまだ少し時間があったけど薄曇りの空に誘われたのか、
甲高い声でヒグラシが一匹鳴いていた。


「ばあちゃんは?」

じいちゃんはそれには答えずにあたしに話しかけた。

「お前、こんまいころバナナが黒ぅなっとるの見て「バナナがはしかにかかっとる」と言ったけんど、覚えとるか?」


「じいちゃん、それもう何回も聞いた。なあ、ばあちゃんは?どっか悪いとこあるんじゃないよね?」



じいちゃんはお盆を持って立ち上がった。

「こっちゃ 来い」

< 7 / 44 >

この作品をシェア

pagetop