不安定幻想曲


学校までの道のりは徒歩20分と遠くはないが近くもない。



自転車で行けばもっと早く楽になるが2人で歩く通学時間が夏希は好きだった。



行くまでに川があり橋を渡り、土手沿いを歩く。潮の香りに誘われて海岸線側に回ることもある。



日陰がなくて夏の直射日光にはかなりウンザリするが暖かい日射しは気持ちがいい。





元より自転車に上手く乗れないのだが。




「だんだん暑くなってきたね。今日は一段と気温が上がりそう。夏は苦手だよ」

「夏生まれで“夏希”なのに?」

「わたしは春の方が好きなのになぁ。春に生まれて“春子”とかがよかったよ」

「うーん、それはダメかな」

「なんでっ!?春子ダメ!?何が!?」


「うん、ダメ。だって“夏希”だからね」






何がどうダメなのかは分からなかったが託都の笑みを見て更に問うことを止めた。



何かを含んでいることは明らかだがこんな顔のときは、妙に爽やかに微笑んでいるときは何を訊いても無駄なのだ




といってもいつでも笑顔、地顔が笑顔なのだけども。



託都の本当の感情を読み取れるのは自分だけかもしれないと夏希は思った。





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