宝石色の幻想
指先が止まったのはそれから数刻後。機械のようにぴたりと止まった細くてすらっとした指。
今まで固まっていた彼女の身体が我を思い出したかの如く動き始める。ぎこちなく、緩慢に。ゆっくりと最初に動いたのは血が少しにじみ出ていた唇である。
「かしわぎ、あつし…」
彼女の電話帳に登録されている、ある一人の名。その視線は鋭く、画面をそのまま射抜いてしまいそうな眼差しだ。
今、かの人物の携帯電話の電話番号が映し出されている。それが目的だったはずなのに、次には蒼空音は戸惑い、躊躇しているのか、なかなかボタンを押さない。