宝石色の幻想
「もしもし。どうした、岩塚?」
思えば岩塚からの着信は初めてかもしれない。事実、岩塚と柏木に直接の接点はなかった。親しいわけでもなく、知り合いと呼ぶに相応しい間柄。
「……。」
そんな彼女からの着信。それにこの、彼女らしくもない重い沈黙。
何かあったとしか思えない。柏木はそっと部屋を後にして、玄関口に出た。
「岩塚、何かあったのか?」
正確には、岩塚に何かあったわけではない。そのことは言わずとも、柏木は理解している。岩塚の身に何かあったら、柏木ではない誰かの携帯電話が鳴るはず。
柏木の額に汗が滲む。蒸し暑さのせいではない。嫌な予感が全身を覆い始める。