宝石色の幻想


「や、だ…いや、ですっ…」

本当にか細い声。耳をすまさないときっと聞こえない。柏木は二人をじっくり観察した。誰譲りかは知れないが、妙な正義感が胸をくすぶり始めていた。



一度、扉が開く気配がして、人の流れもまた変わる。相も変わらず車内は狭いが、先程よりかは余裕が生まれる。

そこで改めて二人を見てみたら、後ろの男性の腕が少女のスカートの位置で漂い、次の瞬間にはあろうことかその中に入っていったのだ。


誰が見ても痴漢行為。少女は恐怖で声を出すことも出来ない様子だ。柏木は意を決して後ろの男性の左腕を強く掴む。

男性が瞬時に柏木を振り返ったとき、柏木は男の腕を力任せに捻った。男性の顔が痛みに歪み、車内には醜い叫びが響き渡る。



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