宝石色の幻想
「そこでお願いです。もし迷惑でなければ、ラッシュ時にこの子の近くに居て欲しいんです。貴方が下車するまでで構いません。」
押し付けがましいことは承知しております。黒髪の少女は年に合わない丁寧な口調で、申し訳なさそうに懇願している。
ラッシュ時に仕事の資料や小説を読むことは出来ない。かと言って別段することもない。柏木は再び後ろにいる少女を見た。
「あ、あの、私、藤沢美乃って言います。どうか、お願いします。」
大袈裟と言えるほど頭を下げる両者にいたたまれなくなり、柏木はイエスの返事を出した。第一大した依頼ではない。