宝石色の幻想



柏木には妻がいる。それを美乃に話したのは出会ってから一年後。言わなかったのは、単に言う話の流れが今までになかったからで、決してやましい感情などなかった。


それを告げた日、美乃はいつもより早く下車した。次の日、柏木は美乃の姿を駅中探したがそれらしい姿は見当たらない。再び現れたのは三日後で、ごめんなさい、風邪引いてました、と美乃が眉を下げて笑っていた。

柏木が三日間ずっと探し回った話をすると、美乃は初めて会った日以上に頭を何度も下げた。そして、居ない日はきちんと連絡しますね、とアドレスと電話番号を書いた紙を手渡した。


< 28 / 58 >

この作品をシェア

pagetop