宝石色の幻想
優しく、どうしたの?と尋ねれば、美乃の口が重々しく開いた。
「私ね、好きな人が居たの…」
それが誰を指すかは蒼空音にもわかった。ずっと美乃は恋愛話をしなかったから、てっきり彼には持っていないとは思っていたが。
「あつしさんなの…」
あつし。蒼空音には馴染みのない名前。でも確か、念の為と聞いておいた柏木の連絡先に、その名前が記されていたのは覚えている。
本来なら、柏木さんなら良かった、とか、柏木さんなら安心だよ、とか言えるのだが、どうもそんな雰囲気ではない。
蒼空音は美乃の次の言葉を待った。何分か無言の時間が流れる。
「淳さん、既婚者だったの…奥さんが、居るの。」