宝石色の幻想



美乃は夢を見た。



夢の中で、美乃は愛する柏木の子供になっていた。柏木が側で笑っている。幸せそうに、笑っている。

その横には見たこともない奥さんが居た。柏木はその女性の頬にそっとキスをする。でも次には、美乃の頬にもキスが降ってきたのだ。


夢の中では、絵に描いたような、理想の幸せがあって、皆が皆笑っていた。誰の幸せを壊すことなく、美乃は柏木の側に居られる。



「愛してる。」



柏木が、美乃に言った。我が子である美乃に。



喜びで胸が震えた。美乃を包んでいた闇が一気に晴れていく。これ、だ。美乃は確信した。これが、幸せだ。


見失っていた希望が美乃の前に現れて、手招きをしている。この世界でずっと生きよう、と招く。



そう、だ。求めていたものは此処にある。あの闇の中じゃなく、この宝石色に輝く夢の中に。



< 44 / 58 >

この作品をシェア

pagetop