宝石色の幻想
蒼空音のアップルパイの腕はみるみる上がっていき、美乃だけでなく、いつしか親戚中にも評判になる代物になっていった。
「知ってたんですか?」
「美乃がリンゴ好きなのは、ね。それ以外はあくまでイメージだよ。」
蒼空音は悔しかった。美乃のことを理解してるくせに、美乃の心をかっさらったくせに、美乃の全てを奪えなかったこの男が。
「…一昨日かな、美乃からメールが来た。あの時は美乃らしくない文面に驚いたけど、さっき読み返したら美乃らしいメールだったよ。」
蒼空音の睨むような視線に気づいていたが、柏木は敢えて無視して話を続ける。
「美乃らしい、きらきらした、遺書だった。」
蒼空音の目が見開く。遺書。つまり、あの紙のこと。美乃は柏木にあれを送っていた、というのか。