宝石色の幻想


「美乃の苦しみは積み重なったものです。彼女は大切なものを守るために、苦しみを選んだ。」


もし美乃が望めば、柏木の家庭は崩れ落ちたかもしれない。その代わり、柏木は美乃だけを愛したかもしれない。



「美乃は、綺麗すぎたんです。」



不倫。世間では罪の意識もなく、その関係を望む者がいる。美乃には罪の意識があった。柏木を好きになったこと、そのものに。それなのに、その関係を作り出す恐れが自分にあると怯えて、自分を苦しめた。自分を、戒めた。



「岩塚…ごめん。美乃があの文章を俺に送ったってことは、美乃自身がそれを俺に伝えたかったんだな。」

尚も震える蒼空音のカップに、柏木はポットのダージリンを注ぐ。こぽこぽと優しい音が蒼空音の耳に響き、不本意ながら涙腺が緩む。


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