宝石色の幻想
「美乃の苦しみの原因は分からない。ただ岩塚の口から聞くんじゃなくて、俺自身が見つけ出さなきゃならないこと、岩塚のおかげで知ることが出来た。」
柏木は残っていたエスプレッソを飲み干した。ほろ苦い香りが、柏木の体内に浸透していく。
蒼空音はそれを見て、カップに残ったダージリンを喉に流す。いま流れている涙ごと洗ってくれ、そう願いながら。
柏木淳。優しすぎた。けどその優しさで、いつか美乃の想いに応えて。
柏木は千円札を二枚、テーブルの上に置いて立ち上がった。それを蒼空音は横目で見る。目を合わせることは出来なかった。もうこれ以上、言うこともなかった。
「待って下さい、お客さん。」
いつから居たのか。カウンターから店主の渋い声に、柏木の動作が止まる。蒼空音も肩をびくりと震わせる。
「カフェオレとアップルパイ。いま持っていきますから。」