【短編】君のすぐ隣で


気分が悪くなったので(ワサパンのせいだ)水でも飲もうとキッチンに向かった。


「あら早南、おはよう」

「……母よ。あの男にワサビを与えるのを止めてやってください」

「あはは南央(ナオ)のこと?」

「気持ち悪くなる……」


水道で食器を洗っていた母が、キュッと蛇口を閉めながら言った。

面白いからいいじゃない、とケラケラ笑いながら布巾で食器を拭きだす。

笑い事じゃないやい。

おかげでこっちは珍しく早起きをして清々しい気分だったのに、一気に萎んだわい。


遠足が雨で無くなったときと、全く同じ気持ちだわい!



「何だってあんなにワサビが好きなんだあの男は。他にももっといーのがあっただろうに! お菓子とかさあ!」

「南央に不満なの?」

「違うます。違います。美形の奴がワサビ好きって事を否定したいんす」


冷蔵庫を開けて、水の入ったペットボトルを取り出す。

そのまま口を付けて飲もうかと思ったけど、やめた。コップに水を注ぐ。


何故かと言いますと、そのペットボトルの蓋に名前が書いてありました。

ご丁寧にふりがな付きで『南央』と。


南央は、小さい頃にお父さんにお年玉を盗られたことがあり、大泣きしたことがある。

その時に、言われてた。

『取られたくなかったら、名前でも書いとけ!』


それから父に言われたことがトラウマになり南央は物に名前を書くようになった。


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