【短編】君のすぐ隣で
身の回りの物から、日用品にまで。
机・椅子を始め、財布・携帯・箱ティッシュ・ベッド・枕カバー。
南央の部屋は無論名前だらけである。
水の入ったペットボトルからは、ワサビの匂いがした。
もう、あの人、何ですか。
気分を入れ替えようと水を飲んだものの、一向に晴れない。かえって悪くなった。
そんな変人がいる家に住んでいると大抵変なことが起こる。
というより、巻き込まれる。
ます、美形の兄は女に困らない。
彼女らしき人が何度も家に来るのを見たことがある。
つまり、タラシだ。
=女遊びをする最低男である。
しかも“彼女”では物足りないらしく、何と数々の女を股に掛けている。
それが女の子にバレたらさあ大変。
痴話ゲンカ勃発です。その時の女の子のパワーはもの凄いもので。
浮気(?)相手呼びなさいよ!
とか、よく言っている。
あ。何故私がそこまで細かく知っているかと言うと、ケンカ開催地が決まって我が家だからである。
相手の子も来て、兄貴大ピンチ。
助けを求められるのは決まって私である。その辺はもう定着事項。
と、色々あって、それはもうかなり前から続いてること。始まりは南央が13歳で私が11歳の時だった。
そんなこんなで。
私は南央のせいで、恋愛に踏み込む勇気がなくなってしまったわけである。
それも話すと長くなることで――…
「早南ー! ちょ、来て!」
絶妙なタイミングで呼び出しがかかった。声の主は南央だった。
パタパタとキッチンから声のした方向、2階の南央の部屋へと足を運ぶ。
「何すか」
「ネクタイ。結んで?」
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