【短編】君のすぐ隣で
語尾にハートマークがもれなくくっついてくるってくらいに甘えた声。
あなた本当に男の子ですか。
にっこり笑ったこの男は、遠くから見てもそうだけど、近くで見るともっともっと迫力がある。
はあ。美、青年だ。
溜息をひとつ零し、ネクタイを取る。
こんな顔がいーのが身近にいたら、そりゃ彼氏にする男の基準もあがる。
あがってしまう。
そのおかげで私は今まで彼氏がいた試しがない。NO恋愛体験。
普通に生きて、
普通に恋愛して、
普通に青春を過ごしたいのに。
この男のせいで……!
「え痛い痛い痛いっす」
「南央がいなければ……」
「怖い怖い!怖いよ早南ちゃん」
「あ、ごめん」
いつの間にかネクタイをきつく締めすぎていたみたいだ。
危ない危ない。
殺人犯になる所だった。
南央のネクタイを締めてやり、ふと壁に掛かっている時計を見ると、7時半だった。
そろそろ準備しようかな。
そう思って部屋を出ようとした時、窓ガラスをコンコンと叩く音。
カーテンが掛かっているから見えないけれど、誰が叩いているかは察しがつく。
「お。飛鳥(アスカ)?」
南央に問いを投げられたのでこくん、と頷いてカーテンを両端に寄せた。
窓を開けると、ふわっと風が中に入ってきた。それと共に、
「おはよ」
制服姿にエナメルバッグ、バスケットボールを片手に持った飛鳥が部屋に入ってきた。
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