不器用な君の精一杯の言葉
ガクンと足が下がり、ふわりと一瞬だけ無重力を感じた。
こんなところに階、段?
次に来るであろう衝撃に身体が勝手に身構えて瞼をキツく閉じた。
「っ」
何かが横切った気がした。その瞬間、小さな衝撃と、
「…っいてぇ」
小さな声。そう言ったのは私ではなくて、
「あっ、と…大丈夫か?」
優しく笑う彼だった。
「な…ん、で…」
我慢してた涙は階段から落ちた衝撃で引っ込んでいたのに、彼を見てまた視界をゆらゆらと揺らせ頬を伝っていった。
「…っ何処か痛いのか?」
ううん、と首を振る。上に乗っかったままの私をわざわざ上半身を起こしてまで心配してくれている。
早く降りなきゃと思っても肩を掴む彼の温もりから抜け出す事は出来なかった。
「びっくりしたとか…? あっ!俺が嫌いとか!?」
違う、とおろおろし始めた彼に告げるとホッとしたようなそんな表情がみれた。
どうしよう。
好きが溢れてる。
彼に好きな人がいてもそんなの関係ない。
私は、あなたが好き。
あなただけが、好き。
「…好、き…ッひっく、…ずっとずっと、好きで、した…」
本格的に泣き始めた私の頭をぽんぽんと撫でるといつもみたいな優しい笑顔で私を見た。膝に乗ったままの私の肩を掴んで自分の方へ引き寄せるとふわりと薫る男性ものの香水。
意味が分からなくて、ああ優しい彼だから慰めてくれてるのかなってそう思った。
じゃないと、諦められないから。
「俺さ、多分こんな性格だから一度しか言えない」
いつもより真剣な声にびくりとする。顔が見えない今笑ってるのか怒っているのか嫌気がさしているのか読み取る事ができなくて少しだけ恐怖心が芽生える。
「俺も、好き」
「…っ、本当…?」
肩でこくりと頷いたのが分かった。
哀しみの涙から幸せの涙に変わるのが分かる。本当に、本当?と聞くとうん、と恥ずかしそうな声が聞こえた。
「…じゃなきゃ、追いかけてこないっしょ」
「…ありがとう、ありがとう…っ」
「あーもう、また泣く!泣き虫だなー」
身体を離してぽんぽんとまた頭を撫でてくれた。まだ彼の顔は微かに赤い。
「泣かれると、困る」