One Way Ticket 2
「佐々木良一は那智の義理の兄だ。」


私は衝撃を受けた

お兄さん?!


「那智の親父さんは大財閥の会長だった。那智はそこの御曹司として、美しい母親と幸せに暮らしていた。」


仁がタバコに火をつけた
細い煙が
明るい店内を濁らせる


「だけど、那智が中学に入った頃…那智の親父は愛人の家に入り浸るようになった。

那智の母親はずっと愛人の存在を知っていたが、那智の為にひたすらに耐えていたんだろうな。


そのうち
那智の母親は病魔に倒れてしまった。

母親は来ることのない親父さんを待ち続けて死んじまった。

親父さんは自分を深く恥じた。でも、そこに漬け込んだのは愛人だった。

愛人は後妻として那智の家にやってきた。
そして、その後妻の連れ子が佐々木良一だ。


那智はその二人に心を開かなかった。
それからじゃねーかな?

那智が人に関心がなくなったのは。
那智は母親が死んだ原因を親父さんと後妻のせいだって激しく恨んでいた。


親父さんは那智を財閥の跡取りとして、大切に育ててきた。
だから那智はあんなに裕福な生活ができるんだよ。」


涙が溢れた
那智の抱え込んでいた苦しみ


「那智が家との縁を切らないのは、那智の母親が那智が財閥を継いで幸せになることを望んでいたからだと思うよ。」


渋い顔をして仁はタバコを灰皿に押し付けた


那智は
ずっと恨んでいる人の傍で、憎しみを抱えて

お母様の夢のために生きてきた…


私何も知らなかった

あの時の那智の苦しい顔
憎悪に満ちた言葉


全てが明るくなったのに

心は鉛のように重かった

抱えきれない
辛い思い


ずっと一人で那智は抱えてきたんだ


涙は止まらない
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