雨の雫
隣の教室へ入る彼女を見届け、僕が廊下を走り出すと
自転車を置いて戻ってきた孝と鉢合わせになった

「おう。」
「さっきはどうも」

「チャリ置いてくるだけにしては遅いんじゃないか?」
「そうか?」

「あ、まぁ、いろいろな」
最近の孝は怪しい。

「さっき駐輪場にいたのは彼女か?」
「なんでだよ」

「そっちこそ、河北と付き合ってるのか?」
「まさか、オレはただの彼女の相談相手だな」

そう言うと孝の言葉が詰まった。
「実は…そのうち話すつもりだったが…」
孝が何やら真顔で語りだした。

「…付き合ってる…」

「えっ。」

「コッチンと先月から…」

コッチンとは外山琴美の愛称で、
彼女もまた、一年の時は僕と同じクラスでバスケ部だった。

「えー知らなかったーよー」

僕はこの手の話に疎く、まるで気づかなかった。

「隠すつもりじゃなかったが、おまえフリーだろ?言い出しにくくてょ」
「おまえも河北と付き合っちゃえばいいのに」

「オレはいいよ」

「まぁな、おまえはモテるからな」
「でも、思わせぶりな行動はやめとけよ」
孝はたまに兄貴のような助言をする

「そんなのないさ」

そう言いながらも、昨日の滝井への言葉を思い出した。



終業のチャイムとともに僕の本業が始まる。

中学の時に始めたバレーとは腐れ縁で、
当初は身長が146cmしかなかったため、コートとベンチを行ったり来たりだったが、
卒業時には179cm、高校入学の時は180cmを超えた。

今ではなんの実力も苦労もなくエースアタッカーの座に就いていた。

やはり男子にとってルックス以上に身長は重要だ。
現に僕の中学時代は悲惨だったが、
今はというと、下駄箱の中には必ず可愛い封筒がが入っている毎日だ。

練習では、体育館をバレー部とバスケ部が同時に使うことが多い。
今日もギャラリーがたくさん来ている。

サッカー部と人気を二分するバレー部のエースは、
それなりに気持ちがいいものだ。

もちろん、僕目当ての子などいないに決まっている。

ふと気がつくと、僕の視線は“彼女”を探していた。
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