雨の雫
そんなことを考えているうちに、入線のアナウンスが流れた。

―1番線に電車がまいります。白線までお下がりください―


適当に頷く僕に、笑顔を向けながら一生懸命彼女は喋りかけている。

しばらくして、
ホームに滑り込んできた電車の大きな音と、ブレーキのきしむ音に彼女の声がかき消された。
と同時に、窓に一瞬、滝井の笑顔が映った。


・・・一瞬。心臓が止まった・・・


自分でも解らなかった。
(耳が聞こえない・・・)
(体に電気が走る・・・)
(胸が・・・)

電車が停止し、ドアの開く音で我に返った。

(びっくりした。なんだったんだ?)

電車が発車した。
彼女は何事もなかったかのように、喋り続ける。

電車を降りて、バス停へ向かった。
この間のことを思い出した。

「この前はゴメン」
「なにが?」

「約束・・・待ち合わせも決めてなくって」
「ん?いいよ、今日だって一緒に帰ってるし。」

「そう?」
「こう言う事は決めちゃいけないんだよ」
彼女が不可解なことを言い出した。

「何だよそれ?」

「運命って、神様が決めることだから流れにまかせるの。」

「現にこうやって逢えたでしょ」
「逢えるって事は、縁があるの。必要だってこと。」

「オレが? 必要?」
「何だよそれ。」僕には理解できない。

「まあ、そのうち解るって。」自信満々に彼女が言う。


「それより見てよ~、このキズ~ 痛ったーいもー」急に袖をめくり上げた。

肘の怪我は部活のときのだろう。

「見て、見てこんなになっちゃったよ!」
彼女は肘を自分の顔の前に上げながら、僕の顔に近づけた。


・・・あっ、また、胸が!痛っ。・・・


目の前が真っ白になった?
いや、今度は目の前に天使が見えた。そう、はっきりと。




家に帰っても、彼女の笑顔が頭から離れない・・・
(なんだろう?)
(気になる)
< 6 / 17 >

この作品をシェア

pagetop