雨の雫
夜の9時が過ぎていた。

気づくと中学のアルバムを引っ張り出していた。
写真には目もくれず、後ろのほうからめくり始める。
無意識のうちに、
彼女の電話番号を調べていた。

ダイヤルを回す手が震えた。
最後の9がやけに長く感じる。

「はいもしもし、滝井です。」
「あ、あの、中学の同級生の中米といいますが、理未子さんいらっしゃいますか?」
「ごめんなさい、今お風呂に入っていて、かけ直すように言いますね。」
「はい、、いえ、結構です。」
「大した用じゃないので。」
じゃ、失礼します。

その夜、彼女からの電話のコールバックはなかった。


次の朝、いつもと同じ時間に乗り一番奥の左側の席に座った。
ドアが閉まり、バスは発車した。

―次は管理棟前 お降りの方はブザーでお知らせ下さい―

バス停を見ると、
(あっ!滝井だ)
彼女も僕に気がついて、バスに乗ってきた。
隣に座るなり、
「米君、いないかなぁと思って一本待っちゃった。へへっ。」
屈託ない笑顔で喋りだした。

「神様、無視しちゃったね。」
バツが悪そうだが、笑顔のままだ。

「なんでそうなるの?」僕が聞いた。

「やだ、この前言ったでしょ。」
「必要ならまた逢えるって。」

「逢えたからいいじゃん。」

「ダメ。これはあたしが操作しちゃったから・・」

「神様、怒るかな~?」彼女は小声で言った。

「関係ねーよ、じゃあ明日からこの時間で一緒に行こうぜ。」

「えっ。いいの?」

「神様が一本で逢わせてくれたんだから、有効に活用しなくっちゃね。」
「うん。」

その日から、僕らは毎朝一緒に行くことになった。


帰りはというと、相変わらず彼女は駅の改札で友達と話をしたり、
ホームのベンチにいたりと、偶然に逢って帰ることが続いた。

まあ、部活の時間が不規則なのとアワビに寄ることを考えると、
時間を合わせることは不可能に近かった。

そう、僕は思っていた。
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