【CORORS①】虹色の扉
嘘でしょ!?
誰かも分からないこんな人に、
ファースト.キスを……奪われた。
唇に冷たい感触を感じながら、ただただ悲しくて。
瞳から零れ落ちるシズクが、無性にも頬を伝うだけ。
──美郷(ミサト)~、こんなのちっとも嬉しくないよ!!
身体を男に預けながら、この春他界した同い年の姉の事を想い瞳を閉じた。
美郷は言ったよね?
好きな人と唇を重ねあうのは、最高に幸せな事だって。
15で恋をしたアンタが羨ましかった。
けど、美郷。
アンタが逝ってしまってから恋に憧れる事を止めたよ。
だって、そんなものに憧れたって美郷は戻ってこないんでしょ?
──唇を覆い被せられた冷たい感触は消えたが、瞳を開けられなかった。
『今日は挨拶迄の事
次はソナタを頂きに参る。
神聖な誓いの場所で待っておる』
代わりに、頭の奥にまで響く透き通った声が耳に残る。
誰?
誓いの場って何?
頭の中がクラクラする。
「千郷?
大丈夫?」
「えっ?」
陽菜?
あれ?
「具合、相当悪いの?」
「ねぇ、ここにいた人は?」
小首を傾げながら陽菜は続ける。
「千郷ずっと一人でいたでしょ?
窓の外から手を振ってもボーっとしちゃってさ、心配するに決まっているじゃない」
私、一人?
夢?
にしてはリアルすぎる感覚。
黒猫といい、謎の人といい今日は本当に変な日ね。
「もう……大丈夫だから」
これ以上心配掛けられないものね。
「良かった☆
ねぇ、泳ごっ」
「そうだね」
プールに来て泳ぎもせずに干物のように、それも室内で妄想に耽っているなんて可笑しな話よね?
陽菜に手をひかれ太陽がサンサンと照りつけるプールサイドに戻った。