【CORORS①】虹色の扉

失われた記憶と白い花


 「お目覚めになられたようですね」


 それは、天使の歌声と思われる程の優しい声。


 「あぁ」

 「良かったわ♪ 昨夜の嵐のあと、砂浜に倒れていたんですよ」

 「えっ!?」


 嵐? 砂浜? いったい何が起きたんだ?

 そういえば、船に乗っていたような?
 
 何の為に?


 「あんなに凄いの初めてでしたものね?」


 此処は、船の上でも砂浜の上でもない。

 何処かの客間のようだ。

 ようやく目の前の景色を把握する事ができた。
 

 「えっと――」

 「あっ、申し遅れました。私はソフィアと申します。貴方は? お名前、何ですの?」

 「俺の名前?」


 彼女は小さく頷いた

 俺……名前って……?


 ――――――――――――――――――

 ――――――――――――――――――


 暫く頭を捻ってみたが、変わることのない俺の頭の中。


 「すまぬ、覚えておらぬ」

 「そう……大丈夫ですわ。この地で養生していればきっと思い出しますわ」

 「だといいがな」

 彼女の言葉が気休めであることも分かってはいるが、不思議と安心する。

 初めて会うのに、昔から知っているような温かい気持ちに包まれた。


 「お目覚めになられた事、メルセデス様に報告してきますわね」

 彼女はそれだけ言い、ふわりとこの場を立ち去った。


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