君が悪いのだ
 突如、洗濯機のドアが開いて、中からずぶ濡れの老紳士が現れた。頭にはハット、手にはステッキを持ち、皺だらけのスーツを着こなして、こなしてはないんだけど、大変いい感じの老紳士で、おれは思わずお辞儀をした。老紳士もお辞儀を返し、ゆっくり口を開いた。
「何故に、蹴るんだ」
「壊れたのかと思いました」
「そうか、無理も無い話だな」
「はい」
 老紳士はおれの頭を凝視した。茶髪。それから、ゆっくりと目線を下に下げて、ダサいサンダルで止まり、また少し凝視して、それからおれの顔を見た。ややあって、「君は、学生か」と尋ねた。
「はい、そうです。大学生です」
「そうか、大学生か」
「はい」
「いい時代だな」
 老紳士は眼を細める。日差しが少し強くなって、風が急に温かみを帯びた気がした。
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