俺と葉月の四十九日
「うん、交通安全教室で園にお巡りさんが来て、圭ちゃんがカッコイイって騒いで。絶対なるって宣言したんだよ」


覚えてねぇや。
そんな純な事言ってた頃もあったんだ。

しかしよく覚えてんなぁ?安田は。


「安田は幼稚園の頃、何になりたかったんだ?」
「エェ?私?!」


安田は、驚いた様に瞳を見開いた。
あたふたと怪しい動きを始める。


何慌ててんだ?


「また下らねぇ事考えてたんだろ?」

玉の輿とかホテル王とか石油王とかさ。


「違うよ!下らなくなんかないよ!真剣だったよ!」
「なら教えろよ」


安田は笑った。


恥ずかしそうにうつむいて…少し透けた身体に夕焼けの色が同調してる。
長い髪が、うつむいた安田の頬に流れて落ちる。


……アレ?


一瞬、ドキリとした俺。


安田って…こんなにかわいかったか?


「…ナイショ」

はにかんで、安田は小さく呟いた。

「何だよ、やっぱ下らねぇのだろ」
「教えないよ〜。死ぬまで言わない」
「死んでるだろ」
「圭ちゃんが老衰で死んで天国に来た時、教えてあげる」



そんなの…ずっと先だ。
何十年も先の話だ。

……そうだよな。
そうなんだな、実際。
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