俺と葉月の四十九日
「今帰って来た所なのよ」


おばさんは、ポケットから鍵を出しながら笑う。

でもなぜか…その笑顔が本物じゃない様な気がした。


少し痩せたな…おばさん。


「…荷物持つよ」

自然に手が伸びた。
痩せた身体に、その袋は重そうに見えたからだ。

「ありがとうね、圭ちゃん」
俺は笑って首を振った。


「葉月に会いに来てくれたの?」
「あ…うん、告別式からずっと来れなかったし」


…そうか、そうだよな。

実際は捜してるんだけど、おばさんはユーレイになった安田の存在を見る事はできないんだな。


…安田の言葉を伝えたら、おばさんはどんな顔をするだろう。


考えた事はあったけど、やめた。
逆に悲しみが深まるだけじゃないかと思ったんだ。


今を受け止める事すらも辛いのに、安田の声を伝える事はできない。

実の娘の安田でさえ、両親の悲しみを直視できないくらいだったんだ。


「ありがとう、葉月も喜ぶわ」
おばさんの後について玄関へと入る。


玄関には、まだ安田の靴が並んでいた。

まるで…まだ生きて、この家で生活しているみたいだ。


変わらないって…切なくもなるけど、ほっとする時もあるんだ。
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