俺と葉月の四十九日
安田の弾む様な笑い声は…鳴咽の泣き声に変わっていた。


…やっぱり泣きたかったんだ。


安田はいつもそうだ。
泣きたい時に限って強がる。
弱い自分を悟られないように。


誰だって泣きたい時くらいある。
当然だろ?自然だろ?
そんな虚勢張っても、自分が傷付くだけだ。

まったく…ホントにこの女は…。


「……怖いんだ…」


膝を抱えて泣きながら、安田は震える声で呟いた。

「何が怖いんだ?」

何でも話せ…俺が聞いてやる。
今の俺にできる事なら、聞いてやるから。


「怖い…私…本当は怖いんだ…トラックに轢かれた時の事はっきり覚えてる。気が付いたら、トラックが目の前だった…」

「安田…」

「逃げなきゃって思うのに…身体が動かない…最後に見えたのは大きなタイヤ…何で私、動けなかったんだろう…逃げたかった…怖くて逃げたかったの!悔しい…悲しい!何で私だったの?!まだやりたい事あった!」


安田は泣きながら…自分の両膝を拳で叩いた。

「生きたかった!もっと生きたかった!」

「…………」


俺は今…安田に何を言えるだろう。


生きたかった。

今生きている俺は、安田に何を言えるだろう。
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