俺と葉月の四十九日
そうか、もう盆なんだ。


「懐かしいね?盆踊り」

ポスターを見つめながら、安田はぼんやりと呟いた。

盆踊り…ガキの頃は、よく安田と行ってたな。
親から貰ったこずかいを握りしめて。


「圭ちゃん、灯籠流しを見に行って川に落ちたんだよね?」

思い出したのか、安田は声を立てて笑う。

「ああ、あったな」


一度、安田が浴衣を着て来た事があった。

今でもはっきりと覚えてる。
紺地に黄色い花模様の浴衣。


綺麗に髪を結い上げて、お母さんが貸してくれたと赤い口紅を塗って…。
まだガキだったけど、思えば、安田を異性と意識したのはあの時からだったのかもしれねぇ。

浴衣姿の安田は、その時の俺には綺麗に見えた。


いつもなら手を繋いで出店を見て歩くのに、その年は何だか照れ臭くて手を繋げなかった。


“圭ちゃん怒ってるの?”


そんな俺の後を、安田は不思議そうに着いて来ていた。


そんなガキの俺は、灯籠流しの時に川に落ちた。

灯籠に触ろうと手を伸ばした安田のヨーヨーが、川に落ちた。
慌てて拾おうとした安田の浴衣の袖が、川水に触れた。

それを見て俺は止めた。

“ダメだよ!葉月ちゃん”
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