俺と葉月の四十九日
河原に並んで座り、灯籠を眺めていた安田はぽつんと言った。


「見えるのか?」
「うん…みんな、光に導かれてあの世に帰るんだよ」


そうなんだ…。


「盆踊りにも意味があるって知ってる?」
「盆踊りに?」

安田は俺を見て笑った。
視線をまた川に移し、話し始める。


「盆踊りはね、ホントはお面を付けて踊るの。昔はそうだったんだって。なぜかと言うとね?踊りの輪の中に、盆に帰って来た亡くなった人が混じって踊るからなんだって」
「へぇ…知らなかった」
「昔、本で読んだの」


安田は、膝を抱えて座り直す。


「でね?面を付けてる人が亡くなった人だと分かっても、声を掛けちゃいけないの」
「何で?」
「声を掛けると、その人はこの世に戻って来てしまうから」


戻って来る…。



「その盆踊り、やってくれりゃいいのに…」
「何で?」


思わず出た言葉に俺は焦った。
出てしまっていた、言葉に。


安田は不思議そうな表情で俺を見上げてる。


「いや、おもしろそうだから」


ごまかした。


安田はふぅんとうなづき、また川を見つめた。
そんな安田を、俺は横目で見つめる。


死者を戻す盆踊り…本当にあればいい。
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