俺と葉月の四十九日
もったいぶる感じで咳ばらいをした聖矢さんは、俺と安田の目の前に手の平を差し出してきた。

ゆっくりと握りこぶしを作る。


「おめぇら、何で赤ん坊が両手に握りこぶしを作って生まれんのか知ってるか?」
「握りこぶし?」

安田と顔を見合わせた。


「知らねぇっす…」
「そりゃそうだよなぁ」

フォロー無しか!
こういうトコ、ブル田にそっくり。

「っ何すかっ!」

瞳を細めた俺の目前に、突然聖矢さんのごついこぶしが差し出された。

殴られんのかと思った!

驚く俺の目に映ったのは、ニヤリと笑う聖矢さんの顔。


「赤ん坊はよ、両方の握りこぶしの中に、それぞれ幸せと不幸を握って生まれんだ。成長する事によって握りこぶしが開いていく…そして少しづつソレが己に降りかかる。今生に生まれ落ちる全ての赤ん坊にだ。
試練も悲しみも苦しみも、楽しみも喜びも全て、両手に握って生まれる…平等にな。私だけってのはねぇよ」


幸せも不幸も、両手に…?


思わず自分の両手を握ってみる。


…最初はこうだったのか?

俺も安田も…。


赤ん坊の手を思い浮かべる。


あの小さな手の中に、自分に降りかかるものを握って…?
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