俺と葉月の四十九日
隣に座る安田も、握りこぶしを作り見つめていた。


何を考えているんだろう、安田は。

今、何を思っているんだろう。


「…じゃあ私…私の両手には今…何も残っていないって事?」

……死んでいる安田にはつらい話だよな。


「そう思うのか?葉月ちゃんよ」

安田の呟きに、聖矢さんは身を乗り出してきた。

「何も残ってない、そう思うか?」

握りこぶしを見つめる安田。


「葉月ちゃん…今までの人生、自分は不幸だったと思うか?」

「…思いません」

安田は顔を上げた。


「楽しい事嬉しい事、幸せがあったろ?悲しい事苦しい事、不幸もあったろ?でもよ、そこから学べた事もあったろ?」
「うん」
「楽しかったか?」

瞳を上げた安田は、聖矢さんを見つめている。

その表情がふっきれた様に…笑顔に変化した。


「楽しかった…早く死んじゃったけど、私…生まれてきて良かった…」


喉の奥、鼻孔の奥…。

熱いものが込み上げてきているのを感じていた。
必死で込み上げる熱さを抑える。


やべえ……。

生まれてきて良かった。

そんな風に言うなよ、安田。


俺…お前に泣き顔見られたくねぇ…。

強いな?お前。
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